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がんになるって、どんなこと?

大学病院のがんセンター長が、子どもたちへの『がん教育』に目覚め、教員免許まで取得して伝えたいこととは?

学校に行こう!と決めたけれど...③

がん教育について

私は「がん教育は、まだ学校には受け入れられないんだ。」と、すっかり落ち込んでしまいました。

ただ、多くの学校に出入りするようになり、教員免許まで取得した今なら、養護教諭の先生たちが、なぜあれほど強い拒絶反応を示したのか、よく理解できます。

わが国の学校教育現場は、われわれの予想以上に多忙を極めています。古き良き時代ののどかな学校生活は遠く消え去り、児童・生徒指導の内容は高度・複雑化し、事務仕事も山積みで、教員は分刻みで走り回っています。

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しかも、いじめや自殺の問題、教員の不祥事などから、社会や保護者の、学校に対する目は非常に厳しくなりました。われわれ医者もそうですが、「先生」という言葉の重みは、昔より圧倒的に軽くなりました。

一方で、学校への要望は肥大化し、以前ならば家庭で行われていた、基本的なしつけ、規範意識や倫理観の形成まで、学校に求められるようになりました。

学校によっては、担任の先生はもちろん、教頭先生や校長先生ですら、毎日、保護者対応と謝罪に明け暮れています。これでは、教員がいくら愛情と熱意をもっていても、こどもたちと触れ合いながら、プロとして最善の指導をする、という本来の仕事に専念することは、とても不可能です。

養護教諭にしても、文部科学省の定めた職務は膨大です。

養護教諭の職務内容(文部科学省HPより)

1 .学校保健情報の把握に関すること
 (1) 体格、体力、疾病、栄養状態の実態
 (2) 不安や悩みなどの心の健康の実態 等
2 .保健指導・保健学習に関すること
〔個人・集団対象〕
 (1) 心身の健康に問題を有する児童生徒の個別指導
 (2) 健康生活の実践に関して問題を有する児童生徒の個別指導
〔集団対象〕
 (1) 学級活動やホームルーム活動での保健指導
 (2) 学校行事等での保健指導
〔保健学習〕
    保健学習への参加・協力
3.救急処置及び救急体制に関すること
4.健康相談活動に関すること
5.健康診断・健康相談に関すること
    定期・臨時の健康診断の立案、準備、指導、評価 等
6.学校環境衛生に関すること
 (1) 学校薬剤師が行う検査の準備、実施、事後措置に対する協力
 (2) 教職員による日常の学校環境衛生活動への協力・助言 等
7.学校保健に関する各種計画・活動及びそれらの運営への参画等に関すること
 (1) 一般教員の行う保健活動への協力
 (2) 学校保健委員会等の企画運営への参画 等
8.伝染病の予防に関すること
9.保健室の運営に関すること

これだけのことを、医療者でもない養護教諭が、通常はたった一人で全てを担当しているのです。最近では、児童・生徒のみならず、教職員や、場合によっては保護者の健康まで気遣わなくてはなりません。毎日、学校で児童・生徒が無事に過ごすように見守る養護教諭の、責任と重圧は計り知れません。

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私は、そんなギリギリの学校現場へ、いきなり土足で踏み込んでしまったのです。

 

学校に行こう!と決めたけれど...②

がん教育について

 「こどもたちに直接がんの話をすることができるんだ!」と思うと、あれも話したい、これも伝えたい、などと、きりがありませんでした。自分の授業を聞いてくれている子供たちの、澄んだ瞳を勝手に夢想したりもしていました。いま考えると、ほんとうにお花畑状態でしたが、区内の29名の養護教諭が全員集まると聞き、「一体いくつの学校が手を上げてくれるだろう?」と、軽い興奮を覚えながら、配付資料も念入りに作成したことを覚えています。

さて、プレゼンの日がやってきました。6月の末というのに、日差しが強くて、プレゼン開始時間の午後3時には、汗ばむような陽気でした。私は嬉々として大学病院近くの区立小学校に向かい、待ち合わせをした教育委員会主事の方に案内されて、図書館の一角に通されました。

f:id:doctor-teacher:20170209134951j:plain主事の方に軽くご紹介をいただいた後、私は満面の笑みを浮かべながら、おもむろにプレゼンを開始しました。これまで、たくさんの学会発表や講演をしてきましたから、人前でお話することは苦になりません。

なぜ学校でがん教育を始めたいのか、どんなことを伝いたいのか、子供たちにどうあって欲しいのか、文部科学省はどう考えているのか....など、自分の熱い思いを一気にお伝えしました。

ところが、プレゼンを初めてすぐに、異様な雰囲気に気が付きました。養護教諭の先生方の表情がすごく硬くて、険しいのです!

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中には、私が話している最中に、「ちょっと、この人何がしたいの?」、とか、「そんな暇あるわけないじゃん!」、「意味わかんない!」などと、小声でささやきながら、あからさまに私の提案を拒絶している先生たちもいました。

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 「!?...????」

悪夢でした。プレゼンが終わった後にも、寒くて重苦しい雰囲気があたりに充満していました。病院や大学の会議でも、ここまであからさまに自分の提案を拒絶された経験はありませんでした。

結局、がん教育の実施には、だれの手も上がりませんでした。

一体どうしたらいいのだろう......私は思いきり打ちのめされました。                          

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学校に行こう!と決めたけれど...①

がん教育について

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「学校に行こう!」、と思ったものの、実際にどうすればいいのか、見当もつきませんでした。自分の子供たちはとっくに成人しており、保護者として学校と関わったのは10年以上前ですし、現在は大学の教員であっても、小・中・高の学校との繋がりは全くありませんでした。

とりあえず、地元の教育委員会に電話して、学校で授業をさせてもらえるのか、お尋ねしてみました。会ったこともない医者からの突然の電話で、こちらの意図を先方にご理解いただける訳もなく、たらい回しになって、結局は自然消滅しました。まあ、当然と言えば、当然かもしれません。

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「さて、どうしたものか...」と、数ヶ月間悩んでいたのですが、ある時、自分の職場の大学病院に、院内学級を設置することが決まった!と聞きました。病院に長期入院しているこどもたちのために、教育委員会とたくさんの議論を重ねてきたうえでの成果だとのことでした。「今なら、教育委員会の理解も得られるかもしれない。」と考え、早速、院長に教育長を紹介してもらいました。

予想通り、今度はスムースに話が進みました。教育長に直接面談する絶好の機会を得たのです!

理解ある教育長との出会い

教育委員会は、区役所の建物の一番奥にありました。教育長は私より少しだけ年上の、優しそうな男性でした。以前の電話で相手にしてもらえなかったという経験から、「義理で話だけ聞いてくれても、断られるかもしれないなぁ」と、不安な気持ちが強かったのですが、教育長は私の一方的な主張を、じっと静かに聞いてくれました。私は必死に具体的な授業内容や進行方法なども提案しましたが、一通り話が終わった後、彼は微笑みながら、こう言ってくれました。

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「大変意義のあるご提案だと思います。区内の全ての小学校の養護教諭を、病院近くの小学校に集めますから、先生が教諭たちにプレゼンしてください。共感して、自分の学校で授業をして欲しいと、手上げした学校があったら、その場で授業の約束をしてもらって構いません」

私は思わず万歳しました! やっと学校に行ける!

この時は、この先は全てうまくいくに違いないと、信じて疑いませんでした。

 

初めてこのブログにいらした方は、ぜひ最初からお読み下さい。