「がん」になるって、どんなこと?

「がん」になるって、どんなこと?

大学病院のがん専門医による、がん教育活動の記録です。

がん教育を始めたのは、なぜ?②

では、なぜ一向に、このようながんに対する誤解や無理解が改善されないのでしょうか?

私は日本人の生活から「病」や「死」が遠ざけられてきたことが、その大きな原因の一つだと思っています。1961年に国民皆保険制度が確立されて以降、日本人の死亡場所は、自宅から病院へと大きく方向転換し、現在は大半の国民が病院で死を迎えるようになりました。

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そして、わが国の国民健康保険制度は、世界最高レベルの医療を安価で保証する、実に素晴らしい制度です。高額療養費制度という還付制度もあり、加入者は、年間に何千万円医療費がかかろうと、実際の自己負担額は100万円を超えることはほとんどありません。世界中のどの国よりも、国民の経済的負担は少ないと思います。

国民は健康保険制度によって、安価で高度な医療を手に入れましたが、一方で、それまで家族が対峙してきた「病」や「死」を、全面的に医療側にゆだねる、あるいはゆだねざるを得ないようになりました。そして、次第に「病」や「死」は、忌み嫌うものとして日常生活から遠ざけられるようになり、今では、むしろ非日常のものになってしまったのかもしれません。

病人が自宅からいなくなって、人々は間近に家族の闘病や死を経験することがなくなり、いつの間にか、「人はいつか病み、老い、そして死ぬ」という、ごく当たり前の事実すら受け入れられない国民性が形成されてしまったようにも思います。

現在の日本人にとっては、自分が健康であることが当然であり、がんのような死に至る病気は、突然襲いかかった災難でしかないのかもしれない、と言ったら、ちょっと言いすぎでしょうか?