「がん」になるって、どんなこと?

「がん」になるって、どんなこと?

大学病院のがん専門医による、がん教育活動の記録です。

【10月31日(火)】中野区立第八学校で授業をしました! 配慮の必要性について。

私は自分が生まれ育った東京都中野区や仕事場のある新宿区で授業をすることが多いのですが、新しい中学校の学習指導要領にがん教育が導入されることが決定したこともあって、今回は中野区教育委員会が授業を企画してくれました。

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中野区立第八中学校は、中野区の北西部にあり、武新宿線の鷺ノ宮駅が最寄り駅です。事前訪問では校長の江原先生から、同校では中学3年生2クラスを対象に、保健体育の授業としてがん教育を行いたいというお申し出がありました。これまで中野区では、小学校ばかり授業をしてきたので、中学校は初めてとなったのですが、中野区医師会副会長の渡辺仁先生、宇野真二先生、そして学校保健担当理事の村杉寛子先生が、平日午後のお忙しい時間というのに参観してくださいました。中野区医師会のがん教育に対するご理解と、一体となった手厚いバックアップには、いつも心から感謝しています。本当に有り難いことです。

今回の授業には、中野区立中学校の実力派校長3人や教育委員会の四宮範明指導主事も参観に来てくれました。3校長に授業前にお会いしたときには、皆さん笑顔で名刺交換してくださったのですが、皆さんの笑顔の奥には「がん教育とやらを、どのように展開するのか、しかと目の前で見せてもらいますよ!!」、というメッセージが秘められているような気がして、思わず緊張しました。

実際に始まってみたら、体育館での変則2コマの75分連続の授業は、あっという間でした。75分という長時間にもかかわらず、飽きて騒いだり、寝入ってしまった生徒が皆無でした。ご参観いただいた先生方も満足そうなお顔でいらしたので、授業はうまくいったかなと安堵していたのですが、授業後の生徒代表の感謝の言葉に、私はもちろん、生徒たちも大人たちも、ハッとして言葉を失いました!

 

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以下の記述は、非常に私的な事項を含んでいるので、私自身ブログに書いていいのか大いに悩みましたが、がん教育を行う上で非常に大切な内容なので、生徒本人、ご両親、校長先生に今一度確認し、ブログへの掲載のご了解をいただきました。そのため時間がかかりましたが、本日アップします。ご理解をいただき、心より感謝申し上げます。

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授業が終わると、司会の先生の指名で、生徒会長の男子生徒が前に出てきて、みんなの前で私に向かって深々と頭を下げて、ご挨拶をしてくれました。

「林先生、今日一日、がんのことについて、詳しく教えてくれてありがとうございました。」

彼は私よりずっと背が高くてがっちりした、スポーツマンタイプの少年でした。しっかりとしたイケメンだなぁ、と思いましたが、多くの学校でこういった形で、児童生徒からのお礼の言葉を頂戴してきたので、私もここまでは全くの平常心で聞いていました。

 

 

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「実は僕の母親ががんになって・・・・」

えっ、何だって!! 

今まで何度もご挨拶はいただきましたが、こんな展開は初めてだったので、正直言って焦りました!生徒たちも、参観の大人たちも、ざわめきはじめました。

 

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「実は僕の母親ががんになって、今も放射線治療を続けていて・・・」

えっ!?、放射線治療? 君には、がんの治療中のお母さんがいるのですか?私は、校長からも保健体育の先生からも、そんなことは一切聞いていませんでした!

「今日はそのことも詳しく教えてくれて本当にありがとうございました。」

その男子生徒は、私をまっすぐ見つめて、言葉を続けました。

「授業の最後に、家族の力が何よりも大切だということを教えてもらったので、僕はこれからもしっかりと母親を支えて、今日の話を生かしていきたいと思います。」

 

なんということでしょう。 

こんな経験は初めてだったので、私は彼を見つめるだけで精一杯でした。「有り難うございます」と、精一杯気持ちを込めて返事をしました。参観していた大人たちは、この生徒の前向きで力強い発言に、皆さん感動に震え、目頭を押さえておられました。

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授業後、校長室に帰って、すぐに校長先生に事情を伺ったところ、この生徒会長の男子生徒のお母様が闘病中だったことは、先生方は知っておられたそうです。今回のような外部講師の授業のお礼の挨拶は、生徒会長が担当することになっていたので、学校側も彼を授業に参加させるかどうか、そして何よりみんなの前で挨拶をさせるかどうかも大いに悩まれました。

まずはお父様に相談したところ、どうぞと言われ、お母様にも確認していただいたとのことでした。本人にも先生方から、本当に大丈夫なのか、無理をしなくていいのだと、何度も話し合ったそうですが、おうちの方のご意見も生徒本人の意見も揺るがなかったそうです。

それでも心配だった校長先生は、授業の前日にもお父様に連絡して、再確認をしましたが、挨拶をさせてください、という最終的なご意見だったので、当日に望んだんです、と教えていただきました。

ただ、お母様の病気のカミングアウトについては、当の校長先生にとっても全く想定外だったようです。実際、彼の挨拶の後は校長先生のご挨拶だったのですが、校長先生もびっくりしたのと、その男子生徒の毅然とした発言にすっかり感動してしまっていて、涙目で、しどろもどろの話になっておられました。

がん教育の講演や研修で、一番多い質問は生徒や保護者に対する配慮の問題です。「学校保健」に掲載していただいた手引きでも書きましたが、授業者は基本的に、たとえ一人も判明していなくても、実際にはこのような児童生徒がいるという前提でがん教育に臨むべきだと思います。今回は学校側は事前に把握しておられましたが、この生徒自身もご家族も非常に前向きでおられました。

ただ実際の現場では、その正反対の状況も十分あり得ます。当事者への、そして生徒たちへの配慮は不可欠であり、やはり事前にできる限りの準備をしておく必要があるなと、改めて認識し直しました。